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徹底した仮説と検証…穴をあけずにとじる「ハリナックスプレス」開発秘話

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お話を伺ったコクヨの長谷川草さん
お話を伺ったコクヨの長谷川草さん 全 16 枚 拡大写真
--自分で自分を破壊する? ハンドルを握ったときの力で頑丈な金属が変形するのですか?

 人間の目で見てわかる明らかな変形ではありません。定規を当てて、ちょっと変形したかなという程度ですが、わずかな変形で出力が出なくなってしまうんです。それからさらに研究を重ね、徐々に形状や材質を変え、出力に耐えられる構造を、コンパクトさを保ちながらつくり上げました。そのため本体には、かなり多くの金属が使用されていますので、従来のハリナックスに比べてどっしりしているんです。

--そして、この小さなとじ歯が200kgfの力に耐えているのですね。

 本体機構と歯の開発は、どちらも難易度が高く重要でした。それぞれ開発担当者がつき、並行して開発を進めました。綴じ歯の開発も苦労の連続でした。既存製品の歯の研究から始まり、それを上まわる性能を求めました。開発当初は100kgfの力で留まる歯を目指しました。並行して、紙同士がくっつく力の評価方法など、あまり前例のない判断基準も一からつくる必要がありました。

 ハリナックスプレスの特徴のひとつである、目立たない小さなとじ部で保持力を発揮するためには、紙同士がくっつく力やとじ部の形状やサイズなど、さまざまな研究が行われました。テストを重ねるたびに、結果を評価するのに必要な判断基準もどんどん増えていきました。それらの研究結果から、とじる原理の仮説を立て、歯の波の深さや規則性を変えるなどして性能をあげるために一つひとつ試していきました。その数は50パターン以上を数えます。

--ひと山越えて、またひと山ですね

 それぞれ開発を進めてきた歯と本体を組み合わせたときにも、大きな山にぶつかりました。歯だけなら性能をある程度発揮できるまで仕上がっていたし、本体もそれなりに出力を発揮する状態ができていたんです。しかし、組み合わせるとある条件下でうまくとじられない時期が続きました。設計どおりに出来上がっているのに上手くいかない。そこから再び大きな設計変更を行い、慎重に試していきました。プレスすると表面的には波形になっているけれど、しっかりとじられているかどうかは、紙を外すまでわかりません。

 研究・開発作業のほぼすべてが仮説を立てて実施し検証するという試行錯誤の連続でした。

--“プレスしている”という感触がすごくいいですね

 底に小さなゴムが入っているんです。紙を圧着するには、紙を歯で挟んでからおよそ200kgfの力をかけ続けなければなりません。歯がぶつかった時点でハンドルを握ることをやめてしまったら、紙は圧着しません。ゴムの弾力のおかげで、歯と歯がぶつかったところからさらに、抑え込む力を加えることができるのです。

◆本当にくっついている、だから強い!

--“のり”を使っていないのにどうやってくっついているのですか?

 波型の歯で紙を押しつぶすときに、絡まっている紙がほどよく引き延ばされ、歯の山の形状に沿ったところにさらに大きな力をかけることで紙同士がくっつきます。

--なるほど。見えない部分にあらゆる工夫が凝らされて発売に至ったのですね。

 今までのハリナックスと違って、紙がとじられる瞬間を見ることができない開発過程において、必要な圧力が出なかったり、本体と歯の相性による不具合や、紙の品質や湿度がとじの品質に影響を与えるなどの問題もありました。数々の壁にぶちあたり、何度も諦めそうにもなりました。目に見えない物理現象をコントロールする、形にすることが一番大変でしたが、徹底した仮説と検証に向き合った開発が実を結びました。

--ありがとうございました。

 普段何気なく文具を使っていると、その使い心地の良さはどのようにして生み出されているのかと、考える機会は少ないですが、文具には目に見えない工夫がたくさん凝らされていることがわかりました。これからも開発者の方の努力によって生み出される文具が楽しみですね。
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《inspi編集部》

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