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【開発秘話】新しいスタンダード、2Wayハサミ「ハコアケ」誕生までの道

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ハコアケモードでポーズ! 左から青井さん、川崎さん、志村さん
ハコアケモードでポーズ! 左から青井さん、川崎さん、志村さん 全 15 枚 拡大写真
 コクヨから、2Way仕様で使える斬新なハサミ「ハコアケ」が2017年8月9日に発売になりました。「ハコアケ」は、通常のハサミモードから、スイッチひとつで、刃を閉じたままカッターのように引いて切れる「ハコアケモード」に切り替えることができます。企画開発に携わったみなさまにお話をうかがいました。

 今回登場していただいたのは、企画ご発端者の青井宏和さん、開発ご担当者の川崎友寛さん、商品ご担当者の志村武さんです。

◆試作品が完成し、発売決定!と思ったら、白紙に!?

--今まで見たことのない斬新な商品ですね。ハサミであり、カッターでもあり…。青井さんは、何をきっかけに、「ハコアケ」を開発するアイデアが浮かんだのでしょうか。

青井:私は、みなさんの日常にあふれる困りごとを観察するクセがありまして。家庭や会社で、荷物を開ける際に、ハサミを開いた状態で、片方の刃だけを使って、カッターのようにして使うシーンを何度も目にしたのです。持ちにくいし、危ないですよね。そこで、便利で安全な商品が作れないかと思ったのがきっかけです。

 ハサミの刃を開いて使うことが一番多いのは、宅配便などで届いた荷物を開ける時ですよね。そこで、荷物が届いてから、ヒモやバンドを切って、段ボールを開けて、中見を取り出し、段ボールを開いて廃棄するまでの一連の流れを検証したのです。そうすると、ハサミとカッターを何度も使い分ける必要があることがわかりました。

2Way仕様で使える斬新なハサミ「ハコアケ」
2Way仕様で使える斬新なハサミ「ハコアケ」

 ネット上でも、ハサミやカッターで開梱することについて「両方使い分けるのは面倒」、「カッターだと刃を出しすぎて中身を傷つけそう」、「危ない」という声が拾えたため、「開梱にフォーカスしたカッター機能を搭載したハサミを開発したらイケる!」と思ったのです。ラフスケッチを描いて、開発担当の方にアイデアを投げたところで、私は異動になったので、後任の川崎さんに託しました。

--青井さんの想いを受け継いだ川崎さん、その後の開発は順調でしたか?

川崎:私は設計やデザインといった、もののつくりこみを行う開発担当としてたずさわりました。当初の設計では、ハコアケモード(カッター機能)の刃が出たままの状態で固定できる商品の開発を進めていました。約一年間、開発を重ねて試作品が完成し、いよいよ最後の製品化会議というときに、直前で設計を白紙に、発売時期も未定となりました。というのも、ハコアケモードのまま固定されたハサミの受け渡しを想定した場合、手を切ってしまう可能性があることがわかったのです。

--一転して白紙に!?それはショックですね…

川崎:設計が完成し最終製品に近い状態の試作を作り、いくつもの試験を一通りクリアしただけあって白紙に戻り、ただ驚き、ショックでしたね。ただ、当社は何よりも、安全性を重視した製品作りがモットーですので、むしろ、発売前に気が付いて本当によかったと思っています。

 「安全性を最優先とし、刃が出たままにならない安全な製品を作ろう」と、ゼロからやり直し、さらに約1年間の開発期間を経て、この度、無事にみなさまにお届けできることになりました。

◆きめ細かな工夫で使いやすさアップ

--大きく設計変更となった試作品と今回の完成品の違いは、ハコアケモードの時に刃が出ているか出ていないか、それ以外にもありますか?

川崎:設計変更前は、ハコアケモードの際の刃の飛び出し量は3mmでしたが、完成品は1mmになっています。段ボールの開梱であれば、1mmで充分なのです。飛び出し量が少ないので、荷物の中身を傷つけにくいですし、万一、刃が当たってケガをしてしまったときの重大性も、1mmと3mmでは違ってきます。

設計の見直しが必要となった試作品(ホワイト)と発売になった商品(ブルー) 刃の飛び出し量がこんなに違います
設計の見直しが必要となった試作品(ホワイト)と発売になった商品(ブルー)
刃の飛び出し量がこんなに違います

--試作品に比べて、完成品は安全性が格段に上がったということですね。ほかに、開発段階でのこだわりはありましたか。

川崎:せっかくのタイミングだったため安全面以外でも使いやすさの更なる向上を同時に見直していきました。まずは、握りやすさですね。従来のハサミは、持ち手の輪の中に指を入れる使い方をしますが「ハコアケ」は、ハコアケモードで使うときは持ち手を外側から握ります。持ち手の形状を工夫し、どちらの握り方においても使いやすいように配慮しています。また、持ち手の当たりをソフトにするために使うラバーですが、「ハコアケ」は、輪の内側部分だけではなく、ハコアケモードで使ったときに指が当たる部分はすべてラバーを使っています。また、ボディに9つの点があるのは、デザインでもありますが、スイッチを入れるときの滑り止めの役割も担っています。

--使い勝手をよくすると同時に、手への負担を軽減することを考えて、こまやかな心配りがされていますね。デザインも優しいイメージです。

川崎:今回の外観イメージをまとめるにあたり、ハードな工具らしさを出すか、ソフトに文具らしくするか、大きく2つの選択肢がありましたが、「ハコアケ」は後者です。

志村:小さなお子さんがいる家庭では、カッターを使うことに対して特に安全面での不安を感じています。そういうこともあって、「ハコアケ」は若い主婦層を製品のメインターゲットにしているため、形状は工具のようなイメージにはせず、柔らかいイメージになりました。

--グルーレス刃というのは、どのようなものでしょうか?

志村:コクヨのオリジナル設計の刃「3Dグルーレス構造刃」ですね。テープを切ったときもべたつきにくいように、内側の刃に溝を作ることで、刃と刃が接する部分を最小限にしています。

--何気なく使っていましたが、この溝に大きな意味があるのですね!

持ち手のラバー、滑り止め、グルーレス刃、細部まで工夫されています
持ち手のラバー、滑り止め、グルーレス刃、細部まで工夫されています

◆何度も「もうムリかも…」と思いながらも発想を転換!

--開発の過程では、苦労した点もあったのではないでしょうか。「もうムリかも」と思った瞬間もありましたか?

川崎:何度もありました。まず、ハサミの刃とカッターの刃は、厚みも、刃付けの角度も違います。刃付けの角度を鋭くして、ハコアケモードにしたときの切断の性能を上げると、ハサミモードのときに刃欠けが起きやすくなります。「どうしたら解決できるだろう」と、スケッチブックに思いつく限りの刃先の形状アイデアをスケッチしては、自分で鉄ヤスリでハサミを削ったりしながら、片っ端から試しました。最終的に、安定して量産可能で、効果もある先端部分のみ刃を三角に削ることで解決しました。

先端部分のみ刃を三角に削ることで、ハコアケモードのときの切断の性能をアップ
先端部分のみ刃を三角に削ることで、ハコアケモードのときの切断の性能をアップ

川崎:ハコアケモードにしたときの、刃の飛び出し量を統一することにも苦労しました。カシメからの距離の比率の関係上、スイッチ部分の製造誤差が刃先では2倍になって影響してくることに加えて、各パーツのわずかなブレ(製造公差)が重なることで、さらにブレが出てしまうのですね。各工程でブレを抑えることはできても0にすることはできないため、発想の転換です。ブレないことを考えるのではなく、たとえブレても手直しをできるような方法を考えました。最初から飛び出す幅を狭めに設定して、幅が0.5mm以下になっているものに関しては、持ち手がぶつかる部分にある突起(通称:ヒットポイント、下駄)を少しずつ削っていくことで、調整しています。工場で一本一本確認していますから、他のはさみに比べて手がかかっています。

持ち手内側の中央の小さな突起「通称:下駄」を削ることで1本1本刃の飛び出し量を調整
持ち手内側の中央の小さな突起「通称:下駄」を削ることで1本1本刃の飛び出し量を調整

--発想の転換となるきっかけは何だったのでしょうか?

川崎:文房具に限らず、色んなものを観察しました。その中でパーツの多い製品が当たり前のように動作するのが不思議に感じて、製造誤差をどう抑えているのだろうと観察していったら、「逃げ」を作っていることに気づいたのです。

青井:違う業界でスタンダードになっている技術やアイデアを、文具に取り入れるというのは、私もありますね。
よく「アイデアはどうやってだすのか」と聞かれますが、違う業種や業界の現場に行けば、人が困っていたり、特殊な方法で道具を使っていたり、壊れたものがあったり、さまざまなシーンに出会います。そこで、「なぜ?」と考え、現場の声を聞くことで、経験と知識が蓄積されます。新しいテーマを担当したときに、直接関係ないそれらの経験と知識が化学反応を起こしてアイデアが出ると思っています。

◆「ハコアケ」のネーミングは満場一致で決定

--「ハコアケ」というネーミングはどのように決まったのでしょうか。

志村:いろんなアイデアが出ました。2Wayを強調する意味で、「ツインカット」や「スイッチカット」も候補になりましたが、どんな商品で何に使えるのか、お客様に伝わりにくいということで、見直しになりました。「カッターハサミ」や「ハサミときどきカッター」なんていう名前もありましたが、開発が進行していくと同時に従来のカッター機能(例えば、刃を折ったり交換することで新しい刃にできる機能)は担保できないということで、カッターの名前は使用しないことに。そこで改めて、お客様にとって何がいいのか、何をするための文具なのかを考えながら、親しみのある短くて覚えやすい名前にこだわり、用途をそのままネーミングに活かして「ハコアケ」に落ち着きました。

川崎:「ハコアケ」は、親しみがある、端的に用途を表しているということで、満場一致で決まりましたね。

--「ハコアケ」は、用途がそのまま名前になっていて、わかりやすいですね。カラー展開について教えてください。

川崎:色については、グルーレス刃がピンク、ブルー、イエロー(限定色)、チタン・グルーレス刃が、ブラックとホワイトです。ブルーは、コクヨ製品の従来のブルーのラインナップよりも、あえてグリーンよりにして、ほかの製品に埋もれないように、新しさを出しました。チタン・グルーレス刃の方は、チタンの高級感と上品な感じを活かし、落ち着いた色にしています。最終的に議論があったのは、イエローにするかオレンジにするかだったのですが、5本並べたときに、しっくりきたのがイエローでした。

好みに合わせて選べる5色展開
好みに合わせて選べる5色展開

--チタンコーティングは、何が違うのでしょうか。

川崎:チタンコーティングすることで、耐久性が上がります。比較的ヘビーユーザーや長く使いたい方にお勧めです。

--是非、「ハコアケ」の魅力を多くの方に知っていただきたいですね。店頭では、どのような展開をされるのでしょうか。

志村:使い方を直感的に想像していただけるように、パッケージにはハコアケモードで使っている写真を使用しています。店頭でのデモ販売も行っていきます。また、言葉よりビジュアルで見ていただいた方がわかりやすいと思いますので、Web広告などで動画を公開していく予定です。

--すでに、消費者の方から好評だとうかがいました。

志村:7月に開催された「コクヨメッセ2017」で、一般の方に試していただきましたが「刃の出る量が少なく、安心して使える」「2つの機能がひとつになっていて、家庭に1本欲しい」など、良い反応をいただいています。

用途がわかりやすい写真入りのパッケージ
用途がわかりやすい写真入りのパッケージ

--最後に、企画者、開発者として、今後はどのような製品を生み出していきたいと思っていらっしゃいますか。

川崎:生活環境の変化に合わせて、機能と感性のバランスの取れた付加価値のあるものを生み出していきたいです。また、そういったものが増えていくことで人の生活が豊かになっていくのかなと思います。

志村:ハサミでもカッターでもない新しいモノで、必要とされるものがあるのではないかと考え、全く新しい価値ある製品を出していきたいと思っています。

青井:従来の文具のカテゴリーにはなかった、新しいカテゴリーと次のスタンダードを生み出したい。というのが、私がずっと持っている一貫した想いです。みなさんをアッと言わせたいですね。

--ありがとうございました。

 まさに、通販での買い物が日常的になった現代に必要とされる新しい文房具ですね。確かに、一家にひとつあると便利です!「ハコアケ」開発の苦労と、安全と使いやすさを考えた細かい心遣いについてお話をうかがい、感銘を受けました。ありがとうございました!

《鯰美紀》

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