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豊かさとは「ハモる×はたらく=? 」hamo-labo#9

ミクロネシア連邦への旅、そこでアカペラハーモニーを通じて人々とふれあって感じたこと。それはとても“豊か”な体験でした。

ピックアップ はたらく
ミサのあと果物でもてなしていただきました
ミサのあと果物でもてなしていただきました 全 9 枚 拡大写真
「この国は“豊か”なんですよ。」

 着いた初日に訪問した公邸できいた堀江 在ミクロネシア日本大使のこの一言がじわじわと胸に染みてきています。
堀江大使夫妻らと公邸にて
〈堀江大使夫妻らと公邸にて〉

 僕のやっているアカペラグループINSPiが日本・ミクロネシア連邦国交樹立30周年事業として現地でワークショップやコンサートを行ってきました。

 ミクロネシア連邦はグアムの南にある大小600ほどの島々からなる国。僕らは首都のあるポンペイ島を訪れました。

ミクロネシアの人たちの暮らしぶり


 一人当たり国民総所得(GNI)で比較するとミクロネシア連邦は3,200米ドル(2014年)、日本の10分の1以下です。国の歳入の約半分がアメリカ合衆国からの援助。現地の人たちの生活で現金を使うのは消費全体の2割から多くて5割程度だそうです。

 バナナやヤシの実はどこにでもなっています。パンの実という果物を蒸したものを初めていただきました。甘みのサッパリしたサツマイモのようでとても美味しかったです。周りの海は魚介の宝庫。お金がなくても食べることに困ることはありません。
パンの実を蒸したもの
〈パンの実を蒸したもの〉

 島での収入を得る先といえばほとんどが公務員。家族の中で1人が公務員になる、または島外のグアムやハワイなどに働きに出れば、一家暮らしていくだけの現金が手に入るそうです。

 みな大家族で、子どもの数も多く、子育ては家族親族で手分けします。母系家族で、養子縁組も多いそうですが血の繋がりや誰の子かといったことをあまり気にしません。戦前日本軍が駐留した際、現地女性との間に多くの婚外子が生まれたのですが、そういった日系人の子たちも差別されることなく、分け隔てなく育てられてきたそうです。

 対日感情はとても良好です。日本統治から解放記念日に伝統的指導者である酋長はこんなスピーチをしました。

「日本統治時代を忘れて(forget)はいけないが許す(forgive)べきだ。」

 第7代大統領には日系人4世のマニー・モリさんが就いています。
前大統領マニー・モリさんと大使公邸にて
〈前大統領マニー・モリさんと大使公邸にて〉

 ほとんどがクリスチャンで毎週日曜には一番のお洒落して教会に集まります。僕らもミサに参加しました。牧師の説教の合間、不意に始まる無伴奏アカペラ聖歌の響きの豊かさに驚きました。僕らは大学や高校で「上を向いて歩こう」のアカペラコーラスを体験してもらうワークショップを開催したのですが、学生さんたちのハーモニーをつくる能力は非常に高いと感じました。
ミクロネシア短期大学でのワークショップのあと
〈ミクロネシア短期大学でのワークショップのあと〉

ミサのあと果物でもてなしていただきました
〈ミサのあと果物でもてなしていただきました〉

ありのままの魅力


 コンサートやワークショップの合間に観光もしました。

 巨石とサンゴで作られた謎多き人工島・世界遺産ナンマドール遺跡。これまで僕が訪れた「世界遺産」はどこも観光客や土産売りでごった返していました。しかしナンマドールにはほとんど人がおらず、その神秘的で神聖な空気に静かにひたることができました。
ナンマドール遺跡、歴代王の墓への入り口
〈ナンマドール遺跡、歴代王の墓への入り口〉

 シュノーケリングや釣りも体験しました。一緒に泳いだり釣り糸を垂らしてお魚さんと触れ合ったのですが、人間に"スレて"いないようです。
糸を垂らして1分でカスミアジさんとご対面
〈糸を垂らして1分でカスミアジさんとご対面〉

 夜に明かりの少ない所にいくとプラネタリウムでしか見たことがないような満点の星空。天の川もしっかり見えました。みなで寝っ転がって流れ星を待っていたのはいい思い出です。
あっ、流れた!
〈あっ、流れた!〉

 人々はとても温和で散歩していて目が合ったとき「カセレリエ」(時間帯問わずいつでも使える挨拶)と言えばみなさん笑顔で返してくれます。

 手つかずの自然とありのままの魅力がそこにはありました。

豊かさとは


 ポンペイ島から乗り換えのグアムに着いたとき、行きの乗り換えのときとは全く違ってそこがとても都会に見えました。そしてグアムの人々の心のあり方も何か違って感じたのです。うまく説明するのが難しいのですが、表面的で少し冷たい印象をもったのです。そして、日本に帰ってきたとき、さらにあまりにも違う風景と人々の存在に、僕は冒頭で紹介した大使の言う『豊かさ』について考えるようになりました。

 グアムも元はミクロネシア・ポンペイ島と同じようにジャングルとマングローブ林に覆われた島だったことでしょう。それがアメリカの領土となり豊かさを求めて変わっていったのが今。日本も戦争で焼け野原になり、そこからやはり豊かさを必死に追い求め今の風景となった。

 豊かさを人が求めるのはそこに幸せがあると思うからでしょう。では幸せはどうすれば感じられるのか。

 幸せを感じるために人は誰かと比べます。誰かより美味しいものを食べたい。誰かよりいい車に乗りたい。誰かより楽しそうな体験をしたい。そんな誰かと比べてより良いと思われる幸福をSNSにアップすることについて現代では“いいね”とされています。

 一方で比べない・比べられない幸せもあります。他人との比較ではなく自分自身が心から楽しい、嬉しい、落ち着く、居ごこちいい、と感じるような状態にあること。

 前者を相対的幸福、後者を絶対的幸福と呼ぶとします。この2つを分ける要素は何か。難しい設問ですが、僕は思いきって答えを出すとしたら、それは『お金』だと考えます。

 お金で手に入れる幸福は相対的なことが多いのでそこに上限はなく、完全に満たされることはない。一方でお金では手に入らない幸福は絶対的で他と比べる必要もないので、手にしたときから満たされてしまっている。誰かと比べる相対幸福は儚いですが、誰とも比べることのない絶対幸福は揺るがない。

 ポンペイ島で豊かな自然と豊かな人間関係に触れたとき僕はそんな絶対的幸福に近いものがそこにあるように感じました。それは古代から変わらず人々が感じ続けてきた幸せ。共に暮らし、共に食べ、共に歌い、共に祈る。そんな絶対的幸福も貨幣経済の仕組みに取り込まれるなかで少しずつ薄れている気もしました。

 伝統的自給自足で暮らしていた島の人たちの暮らしは、16世紀末から始まるスペイン、ドイツ、日本、そしてアメリカの統治により変化してきました。貨幣経済が入ってきたことでパンの実やタロイモや鮮魚などの伝統的食事より、米やインスタントラーメンや缶詰など輸入食材が好まれるようになったそうです。またそれに伴いこれまでは果物の皮や魚の骨などその辺に投げ捨てても環境に負担をかけなかったゴミが、いまではプラスチックや缶ゴミなどが混じることで環境問題となっています。大家族での生活も徐々に核家族化しているとも聞きました。

さて、ここでハーモニーの話。


 僕はアカペラ音楽をやっていて、みんなで声を合わせてうまくハモったとき、他と比べることのできない幸せな気持ちになることを知っています。

 違う性格・考え・価値観を持つ他人同士が集まって声をだしてうまくハモる瞬間なんてときどきしか訪れません。だからこそ、うまくハモったとき、一緒に歌ってくれる仲間がいること、自分がいまここに生きていて、そのハーモニーの輪の一員であることに感謝があふれるのです。これは何とも比べられない、比べる必要もない幸せです。そして独り占めになんかできなくて、いろんな人に分かち合いたいと心から思える幸福です。

 こういう瞬間は職場でも学校でも地域の集まりでも家庭でも、みんなが調和しようと願えばきっと訪れるはずだと僕は思ってます。

 ミクロネシア連邦への旅、そこでアカペラハーモニーを通じて人々とふれあって感じたこと。それはとても“豊か”な体験でした。
大使夫妻や大使館スタッフのみなさんが空港までお見送りにきてくださいました。
〈大使夫妻や大使館スタッフのみなさんが空港までお見送りにきてくださいました。〉


INSPi 杉田篤史
アカペラグループINSPiリーダー
様々な社会組織における人々の調和を考えるワークショップhamo-labo主宰
NPO法人TOKYO L.O.C.A.L 理事

《INSPi 杉田篤史》

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