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「人にも自分にも役に立つ」ことが条件…思考を伝えるノートがすべてを制す!?

 “良い”ノートとは何なのか。ノートを研究観察することで学習メソッドを生み出してきた太田あやさんと、ノートを共有するアプリで月間利用者100万人を超える「clear」のサービスを生み出した新井豪一郎さんにお話を伺いました。

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対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏
対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏 全 8 枚 拡大写真
 自分の勉強の理解のためのノート、他者の理解を引き出すためのノート。私たちはその目的に応じて、ノートの形や書き方をさまざまに変えています。その奥深さは計り知れません。

 ノートを研究観察することで学習メソッドを生み出してきた太田あやさんと、月間利用者100万人を超える学習ノート共有アプリ「clear」の開発者であるアルクテラス・新井豪一郎さん。ノートをめぐる2つの視点から、なぜノートが学びのカギとなるのか、今後の学びのあり方を交えながらお話しいただきました。

--まずは新井さんにお聞きします。ノート共有アプリ「clear」のサービスを始めたきっかけを教えてください。

新井さん:2014年の前半に「clear」をリリースしました。それまで僕は塾の運営に携わっていましたが、生徒たちが宿題をなかなかやってくれないことに悩んでいました。理由を聞くと「家で勉強していてもわからないことが多いし、すぐに先生に聞きたくても聞けない」と。そこで、家での勉強をサポートできるようなデジタルのサービスがあったら良いなと考えたことが始まりです。

アルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏

 当初から学生同士が自分たちの知っていることを教え合う、学び合える場をつくれたら良いという思いがありました。そんなあるとき、電車で隣に座った女子高生が、自分のつくったノートを「どう?きれいにまとめたでしょ」と友達に自慢していて、それを見た子も「○○ちゃんのノートってきれいでわかりやすい!いつも見せてくれてありがとう」と話していたんです。きれいに書けたノートって、人に喜ばれるのはもちろん、書いた本人も誰かに見せたいんだなということを実感し、ヒントを得ました。

 学生が自分のテスト勉強のためにつくっているノートが、他の誰かの役に立つ。Webを活用した様々なサービスの選択肢があるなかで、ノートを共有するアイデアに着目し、実際にノートを公開してもらえるようなプラットフォームを目指して工夫を重ねました。

デジタル世代であっても、親しみが湧くのは“手書き”



太田さん:「clear」はアプリ上で展開するデジタルサービスでありながらも、中身はアナログである“手書きのノート”ですよね。新井さんには“手書き”へのこだわりがあるのですか。

対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏

新井さん:手書きにこだわったというより、結果的にそうなった感じです。学生にとっては、タイピングよりも手書きの方が構成しやすく、適切な場所に注釈や挿絵も入れやすい。真新しいことを学ぶときに、タイプされたデジタルのものよりも手書きの方が温かみがあって親近感が湧く、とユーザーは声を揃えて言いますね。

--太田さんが2008年に『東大合格生のノートはかならず美しい』を刊行してから10周年を迎えます。「ノート」を研究するようになった、そもそものきっかけを教えてください。

太田さん:以前、ベネッセコーポレーションで進研ゼミ高校講座の編集をしていたとき、担当していた冊子のなかで志望校に合格した先輩のノートを見せてもらうコーナーがありました。今でも記憶に残っているのは東大生が書いた生物のノートです。ものすごい情報量なのに、言葉がひとり歩きせずに、とてもわかりやすくまとめられていることに驚きました。そうやって数多くのノートを見るなかで、ふと大学受験に成功している子は、きちんとノートをとっているということに気づいたんです。

 私自身の学生時代は、ノートをとるのが面倒で「ノートをとる時間があったら一問でも多く問題を解いた方がいい」と思っていました。それなのに、受験科目も多く最も学習効率を重視しなければならないはずの東大生が、どうして一見非効率とも思えるノートに力を注いでいるのか不思議で仕方なくて。東大生のノートを100冊集めたら何か方向性が見えてくるのはないかなと思ったことがきっかけです。

作家・太田あや氏

--10年前と比べて学生のノートはどう変わってきましたか?

太田さん:勉強に王道のやり方が存在するのと同じで、ノートの使い方自体は10年前も今もそれほど変わっていないと思います。変わったのはビジネスマンのノートでしょうか。手書きであってもiPadを使用したり、ツールは変化してきていますね。

新井さん:僕もそう思います。手書きで書いた情報をデジタルにタグ付けして整理するといった方向への変化はあると思いますが、ノートの目的や意義、作り方は変わらないと思います。それがiPadに書き込むにしても、事実を書いてそこから発想を得るといったノートの本質そのものは変わっていないと思いますね。昔に比べると筆記用具がカラフルになったり、ファッション化している傾向はあると感じますが。

太田さん:文房具・ノートもニーズに沿った様々な商品がありますよね。東大生を取材していて、ある共通点に気づいたんですが、彼らの筆箱はかなり小さくて使う筆記具は2、3本。色もとてもシンプルです。使うツールは最小限に、その分書く作業に集中し内容を充実させたいと思うのが、東大生らしさなのでしょうね。

人気があるのは“思いやり”のあるノート



--ノートの外見や道具自体にこだわるよりも“書く内容を充実させる”とは、ノートづくりの本質ともいえる部分ですね。「clear」で公開されているノートは、シンプルに整理されたものやカラフルで可愛いものなどさまざまです。人気のノートの傾向はありますか。

新井さん:人気があるノートというのは、作り手が“思いやり”をもって書いているものですね。ちゃんと読み手側に立ってプレゼンテーション、つまり表現ができていて、楽しく、わかりやすく伝えてくれるノートが人気です。ポイントは「余白」と「注釈」そして「挿絵」、この3つをおさえていることですね。「東大生のノートはシンプル」という太田さんの意見がありましたが、海外の例をご紹介すると、タイではトップ校に受かるような優秀な子のノートはとてもカラフルだったんですよ。

太田さん:東大生は、ノートをカラフルに仕上げるという“労力以上の知識”をそこから得られるのか、というのを考えていますね。あくまで自分が理解しやすいように書く、といった明確な目的があります。

--なるほど。もちろん、自分の理解を深める・能力を高めるためにノートをつくることも大切です。ただ、社会人になると自分の理解を深めることと同時に、それを他人にも伝えなければならない。他者の理解を引き出したり、コミュニケーションをとることが重要なスキルになってきますよね。

新井さん:私も、学生と社会人の違いはそこにあると思うんです。学びをインプットするのが学生、学んだことをアウトプットするのが社会人。「clear」で公開されているノートは、自分自身の理解を深めるというインプットが根底にありつつ、第三者へわかりやすく伝えるといったアウトプットも行っています。ノートを公開することで体得できるクリエイティビティやオリジナリティ、プレゼンテーション能力は、社会につながる大切なスキルだと思います。「clear」で人のためにノートを公開しているうちに、表現力がついてきたという声はたくさん聞きますね。

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《吉野清美》

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